この国では、安定した会社で長期間勤めたいという希望はまだまだ根強くある。しかし、以前の就職人気ランキングの常連さんだった一流銀行が、順位をダウンさせている。銀行のお仕事があとあと、高い収入のまま居据わるの可能性が無いと感じている人が増加したからだという。これまで安全とされた成功のための「レール」は、どう考えてもなくなりはじめた。
新時代の基本に納得した上で、「スペシャル」をベースとし、ここ一番で賢明なチョイスをする。その繰り返しで、この先の時代しかできない「自由な生き方」に向けて道が開くことができる。若い社会人はもちろん、これから就職活動をしようとする大学生にすすめたい、この先の時代の「キャリアデザインのガイド」だ。
本書のキーポイント
「幸福のためのベースの作り方」が書かれている。そのベースは「お金(金融資本)」「仕事(人的資本)」「愛情・友情(社会資本)」の3つである。
新時代のルールをつかみ、大事な所できちんとしたチョイスをすることで人生は攻略できる。
「人的資本」を増やすには、なるたけ長期間働くこと、会社に頼らず、あなたが得意とする「スペシャル」な物を見つけ出して、それを会得することが大事となる。
要約
この先の時代の知るべきこと
お金があれば「自由」になれる
これまで日本人のライフスタイルは、終身雇用制に沿って、会社に依存したサラリーマン生活を送り、定年以降は年金で余生を送るというパターンで描き出すことができた。このパターンは、少子高齢化や年金支給開始年齢の引き上げなどで壊れたと言われている。けれども、いまだに日本人の意識の中に根強く居据わる。
本書が見せるのは、こういうパターンから縁を切って、この先の時代を楽しく生きることに必要なアドバイスである。
近年、パワハラやドメスティックバイオレンス、年金給付額の引き下げといった話を聞くことはありがちなことだろう。けれどもパワハラをされたとしても会社を辞めてられないのは、お金(収入)を会社に依存するからである。ドメスティックバイオレンスにあっても別れないのは、生活の収入を夫に依存するからだろう。また、退職した高齢者の方は、年金を給付する国に頼り切っているといえる。
肝心なのは、ひどいことが起こったとしても、好きに他の場所に移動できるようになることだ。そうするためには、国にも、勤め先にも、家族にも寄りかからずに生活していくためのいくつもの資金をもち、経済面での一人立ちをやり遂げることが重要である。すなわち、お金を確保することが、この上ない「自由」をものにする結果になってくるのだ。
この先の世の中は、「人的資本」「金融資本」「社会資本」という「幸福に役に立つベース」を積み重ねることが重要である。
人的資本
人的資本を運用する
「人的資本」というのは「働いて給料を稼ぎだす力」のことである。「今後ずっと働くおかげで、あとあと獲得できるお金の額」という側面もある。「あとあといただける」ことは、人的資本は20~30代のときほど大きく、歳を経るにつれて減少していくということをいうのです。
大卒サラリーマンの場合では、人生給与は大体3億円から4億円とされている。いかにリスクを差しひいても、20代なら1億円を上回る人的資本をもっていることである。
若い時程、人的資本はでかい。また、人的資本の使用は、株式などの金融資産の運営とは異なり、「損しない売買」と言える。働けばきっちりと収入を得られるだし、いかに使用してもマイナスを出すことはありません。若い時こそでかい人的資本を活用する、つまり働くことは、元手を最高まで、なんにもリスクがない資産に投資をするのと一緒なのだ。大金持ちをめざすつもりなら、若い人はとりあえず働くのが何よりだといえる。
サラリーマンとスペシャリスト
「働く」ことは、この国ではいまだに終身雇用制のサラリーマンとなることと関係づけられる。けれどサラリーマンは、人的資本の実行する上でデメリットが生じる。
サラリーマンの姿勢はこのような内容のものでした。新卒でたまたま入り込んだ職場に滅私奉公し、定年あとは退職金と年金でのほほんとした生きて行く――。このようなライフスタイルなら、定年と共に人的資本がなくなっても問題はありませんでした。
けれどもいま、平均寿命は90歳に近づき、年金支給年齢を70歳に上げなければ年金制度がもたないといわれてる。これからは長年はたらくことが重要であるのに、定年で人的資本がなくなっては困ることになります。
働き方とは、「クリエイター」「スペシャリスト」「バックオフィス」の3種類が存在している。クリエイターはクリエイティブ(創造的)な仕事をする人で、スペシャリストはスペシャル(専門)をもっている人だ。一方、バックオフィスは統一化された、責任が少ない仕事している人たちである。バックオフィスは仕事と会社が一つになっており、このほとんどは、いずれAIやロボットに代替えされていく。
日本のサラリーマンのおおよそは、はっきり言ってバックオフィスの仕事をしている。終身雇用の会社を退いてもこの仕事し続けられるだけの、専門的な知識や経験をもったスペシャリストにはなることができていないことが大半だ。この先の世の中にては、我が国のサラリーマンはビジネス業界からだんだん去っていくでしょう。
しかしながらスペシャリストになれば、会社を退いても専門性によって転職可能だし、フリーで働くこともできる。スペシャリストに辞職などないのだ。
金融資本
金融資本を運用する際のポイント
「金融資本」とは、リアルで運営できるお金をいう。金融資本は、金融マーケットでうまく運営できると増えるし、逆だったら減少していく。人的資本とは異なって、金融資本はそれを増やしていこうと考えたらリスクを負わなければいけない。
この金融資本は、「複利」で運用していくべきである。
単利と複利の差は、長期になるほどデカくなる。アインシュタインのいったように、複利は「宇宙で最強の力」である。こういったことは、人生においてのささいな選択肢が、あとになるとまるで違うところを生むことを意味している。
投資と投機の違いを理解する
せっせと働いて生活にゆとりがつくられてきたら、お金を株式などで動かすことを考え始めるかも知れない。こういうとき肝心なのは、「投資」と「投機」が異なる所を覚えることだ。
株式投資は、株式市場(グローバル経済)の増大と共に、宝くじの本数自体ジワジワと増大していくような「プラスサム」のプレイである。それにより、たっぷりの長い時間投資をしたら、原則であれば、その結果すべての参加者が稼ぐことができる。このおかげで、「良い株を長くもつ」ことこそがキーになるところとなる
あべこべに、きょう購入した株をあした手放すような短期売買(トレーディング)は投機と言われる。投機は誰かが得をしたら、必ずこれ以外の誰かが損をするというようなゼロサムゲームだという。
いちがいに投機が悪いということではありません。しかし、投機をおこなっているのに、それを投資だと勘違いしてはいけないのです。自分がおこなっている事をきちんと認識していないとしたら、まずうまくいくことはない。
運用は流動資産で
金融資産を運用する場合では、金融資本を不動産などに一極集中させるのはさけた方がよい。いま、金融資本の運用は、流動資産でおこなわれる方向にシフトされています。
その背景のは、シェアリングエコノミーの拡散が見られる。ここからは、ライフステージに合わせて何にも増して使いやすいお家に住み替えたいという人が増加していくだろう。引越するたびに、不動産をお金と替えていては、手間もお金もおっきい。
これによって、家や車などの固定資産はなるたけ所持せず、貯金や株・債券というような流動資産で金融資本を運営していくのが、これから先の社会にはふさわしいだろう。なぜならば「リスク分散」という投資の定石からも適切だ。家を購入すればリスクはある不動産に集まるが、流動資産が元の管理ならそれを回避することができる。また、流動資産は状況に応じてすばやく現金化できるし、外国への振込などがが楽なというメリットもある。
社会資本
愛情空間と友情空間
「社会資本」は、一人の人間の「愛情空間」と「友情空間」にいる他者とのつながりをいう。
愛情空間は、特定の誰かと性愛で結びついている空間だ。また友情空間は、特定の誰かと友情でつながっている空間である。愛情でつながるのは、普通は親子と夫婦。友情でつながるのは、親友で1人か2人、イツメン(いつものメンバー)がせいぜい5~7人、互いにお友達と呼び合う関係でも20人を超えるとは思えない。2つとも希少である為、価格がつけられないプライスレスな世界だ。
お金でつながる貨幣空間
愛情空間と友情空間の外の方に、お金によって繋がっているたくさんの「他人」がいる。この他人とのつながりは、「貨幣空間」と呼ぶことができる。人はお金のお陰で世界中の他人と繋がっている。
人数的な広がりでいえば、愛情空間と友情空間はとても小さく、貨幣空間はものすごく大きい。しかし、1人にとっての大切さの重みで考えると、愛情空間のほうが、圧倒的に価値がある。
拡大の一途をたどる「評判経済」
愛情空間と友情空間は、大切なものだ。しかしながら、現在は、インターネットやSNSを活用して、新たなつながりの空間が作られている。そこで、大きな価値をもつようになったのが「評判」だ。
評判の良いところには刻々と人が集まり、それがお金を生んでいく。こうやって「評判経済」がつくられていく。また、評判は「いいね!」やフォロワー数ではっきりと数値化されているため、立派な「評判資本」だととらえることができる。
社会資本を運用する
インターネットやSNSでの結びつきは、「知り合い以上、友だち未満」の間柄だ。愛情空間や友情空間での強いつながりに比べると、弱々しいつながりである。
こういったつながりは、世界中に拡がって、ここでは評判経済ができている。いわば、お金に応じてつながる貨幣空間のネットワークとなっている。
ここ最近は、良い評判が得られれば、弱いつながりから仕事が生まれることだって増えてきた。このことは、誰と働くか、何処で働くかもすべて自分で選択できる仕事である。
こういう風にして世界中の若い人たちがめざすあるべき姿は、「仕事や人とのつながりを自由にチョイスしでき、オマケにお金からだって自由になって、やりたいこと・自信を持っていることをやりながら好きな人たちと生きること」になっていく。
こういう理想において、社会資本を増額するためには、ささやかな愛情空間・友情空間と、でっかい貨幣空間に拡がる友だちネットワークをもつことが大切になる。人的資本は「やりたいこと・よくわかっていること」に集中させる。金融資本はグローバルマーケットに分散投資する。こうして3つの資本を増加させるということが、間近に迫った時代の人生戦略である。
著者
橘 玲(たちばな あきら)
2002年国際金融小説『マネーロンダリング』。2006年『永遠の旅行者』が第19回山本周五郎賞候補。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』ベストセラー、『言ってはいけない
残酷すぎる真実』ベストセラー、2017新書大賞。
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