AI時代 × 人生100年 | ディープラーニングで次の50年のコマンダーになれ

Life shift20170322 01

(iStock)

元記事はこちら。

桂木麻也 (インベストメントバンカー)

50年という歴史やその時間の重みを、皆さんはどのように感じるだろうか。夫婦であれば金婚式であり、子供がいればその成長と併せて2人で過ごした時間の価値を噛みしめるであろう。また企業の創業50周年と言えば、創業者から始まり、順当にいけば2代目あるいは3代目までバトンタッチをしているはずである。

紆余曲折を経ながらも事業を維持・拡大できたのであれば、従業員共々感慨も大きいであろう。先の東京オリンピックから50年超が過ぎたが、当時に比べて日本の変貌ぶりはあまりにも大きく、この点においても50年という時間は斯様にも重く、深いものであると感じざるを得ない。

Life shift20170322 01
(iStock)

さて成長著しいASEAN経済であるが、実は今年が設立50周年の記念年なのである。ASEANとはAssociation of South East Asian Nationsの略称であり、その設立は1967年である。タイ、フィリピン、マラヤ連邦(現マレーシア)の3カ国が1961年に結成した東南アジア連合(Association of Southeast Asia)を前身とし、マラヤ連邦から1965年に独立したシンガポールとインドネシアの5カ国によって設立された。

東南アジアの経済成長促進を目的に掲げながらも、ベトナム戦争によって東南アジア諸国の共産化を恐れたアメリカの支援のもと、反共産5カ国による域内の政治的安定を主たる目的としていた。現在では10カ国がASEANに加盟し、総人口6億1000万人、域内の名目GDPの総計は1.8兆ドル、域内総貿易額は2.1兆ドルに上る巨大なマーケットを形成している。

2016年にはASEAN経済共同体も発足し、巨大市場におけるヒト・モノ・カネの更なる自由な流通と市場の発展が期待されていることを考えると、発足当時の様相からまさに隔世の感があり、ここでも50年の時間の重みを感じるのである。

日本経済にとって非常に重要な市場でありパートナーでもあるASEAN各国であるが、日本政府もこの50周年という記念年を節目に、日本・ASEAN間のより広範なビジネス機会を創出しようと諸々の企画を行っている。新年度早々の4月6日には、ASEAN10カ国の経済大臣を日本に招き、世耕弘成大臣のホストものと、日系企業との様々な交流・懇親が予定されている。

また翌7日には、ASEAN企業と日系企業のビジネスマッチングイベントが開催される。実は昨年、日本-ASEAN首脳会議にて、安倍晋三総理が日本-ASEANの強固な企業間ネットワークを形成することを推奨し、それが今回のマッチングイベントにつながった経緯がある。

イベントの主催者は経済産業省、JETROであるが、私はご縁あって、彼らに対してイベントのコンセプトや招致企業の候補について様々なアドバイスと、企業招致に関わる実務的サポートを提供させていただいた。結果、「ASEAN – JAPAN Innovation Meetup」との名の下、ASEANにおける次世代のビジネスリーダー候補や、ASEANと日本の注目スタートアップ企業が一堂に会する、新しいビジネスを生み出すためのマッチングイベントの開催実現にこぎつけることができた。

https://www.event-site.info/meetup2017/index.html

出展者の多くがASEAN企業で、従事している業種はヘルスケア、インフラ、ビジネスサービス、デジタル・IoTの4分野である。これらの業種はASEANにおいて社会課題解決型の新産業と呼ばれ、実際、成長著しい各国において新しいビジネスが生まれている。ASEANにおける新ビジネスの現状、新産業分野での日ASEAN間のビジネス連携にご関心ある方は、是非訪問していただければと思う。

AIを活用した不動産ビジネス

ところで、私は前回のコラムでAI にレンブラントの絵をディープラーニングさせて、新しいレンブラントの絵を描かせる、というトピックを紹介した。AIというと囲碁の世界での活躍が有名だ。実際、先日行われた「ワールド碁チャンピオンシップ」において、AIは日本、中国、韓国のトッププロ棋士相手に3位の成績を収め、改めてその能力の高さを実証した。

レンブラントプロジェクトにしても、囲碁のDeep Zen Goにしても、ロケットサイエンティスト的な開発者の存在がある。その意味でAIに対する興味は高まっても、まだ身近なものとして実感できていない人がほとんどなのではないだろうか。そんな中、私の元同僚がAIを活用した不動産投資の情報提供ビジネス開始しようとしている。

その友人をSさんとしよう。Sさんと私は大手投資銀行で席を並べて仕事した仲である。彼は退職後、ASEANを中心とした不動産投資ビジネスの世界に転身した。成長著しいASEAN各国である。大規模なタウンシップ開発は目白押しであるし、既存の物件でも近隣インフラの整備により価値上昇が見込まれるなど、投資妙味の大きい中でSさんは投資活動を行っているのだ。

そんな彼を悩ませるのは、「外人価格」の存在だ。不動産ブローカーは買手が外国人だと分かると、高い値段を吹っかけてくるのが常だという。ただ情報の非対称性が著しく、ブローカーの言い値が適正価格からどれだけ乖離しているのか見当がつかないことが多いという。外人価格で購入させられて、地元人価格で売却せざるをえなかったら逆ザヤにもなりかねない重大問題だ。

AIとASEANの不動産

そこでSさんがやったのが、AIを活用しながら、ASEAN各国における全ての不動産サイトの情報を一元管理することだ。つまり、ASEAN不動産市況の価格ドットコムの作成である。言うは易しであるが、それを実行するのは大変だ。まず言語の問題。英語サイトを運営する業者は少なくないが、そこでの情報はそれこそ外人価格である可能性が高い。現地価格は現地語でしか語られないのである。この読み込みはAIが可能にしてくれる。

また物件の大きさや金額の単位を正確に認識するのも大変だ。サイトの中には多くの数字が溢れている。面積に関しては坪、平方メートル、スクエアフィートなどの単位があるが、それを的確に読み取って正確な面積情報を導出せねばならない。ちなみに、平方メートル、㎡、Square Meterは全て同じ単位である。

単純なテキスト識別ではこれらは違ったものとしてカテゴライズされるが、AIであればラーニング機能を用いてそれらが同じものとして処理してくれる。金額も然りだ。100,000円、10万円、100千円、100,000Yen、JPY 100Kは同じものであることを認識しなくてはならない。このような作業をAIにさせることで、SさんはASEAN中の売買情報を集約し、横並びにさせて地図上に表示することに成功した。

たとえばジャカルタのスディルマン通りにあるコンドミニアムで、2件の売りがあるとしよう。業者Xは805号室を50万円/㎡で、業者Yは709号室を30万円/㎡で売り出している。同じコンドミニアムの1階違いでこのような差異は大きい。もし隣のブロックにあるコンドミニアムで28万円/㎡の売り情報が取れれば、業者Xの提示価格は明らかににおかしいことになる。

Sさんの仕組みでは、これら業者が複数言語の情報を提示していたとしても、言語によって価格の差異がないかまで瞬時に把握することが可能なのである。価格は需要と供給に応じて日々変化するが、彼のシステムはその変化をオンタイムに反映して利用者に提供することができる。目下SさんとAIは、ASEANを超えて世界中の不動産売買サイトにアクセスを開始している。そんなSさんのビジネスサイトが以下である。まだソフトローンチであるとしているが、是非訪問していただければと思う。

https://property-db.com

ところで、Sさんと彼のITスタッフはロケットサイエンティストではない。そうでない彼らでもAIの特性を理解することで、凡そ不可能と思われてきた情報の非対称性の壁を取り払うことに成功しつつある。AIを使いこなす立場だからこそ、到達した境地なのである。

ここで我々は、ネットに関しても似たような経験をしてきたことを思い起こさないといけない。過去50年を振り返って日本が大きく変わったことは、冒頭に述べた通りである。ネットが世に登場して約20年。ネットが登場する以前の30年と、登場後の20年を比較した場合、生活やビジネス環境の変化の割合が大きいのは当然後者である。

ネットが使えるかどうかによって生活の質に差異が生じる、デジタルデバイドという現象がある。ただ高齢者の間でもネットリテラシーが上昇しており、現状の定義によるデジタルデバイド問題は消滅していくであろう。ただ真の格差は、ネットユーザーの立場で終わる人と、ネットにコマンドを出してそれを経済活動や学業に活用できる人との差であろう。

私自身、ネットの本質とポテンシャルを理解することなく、ただ利便性ばかりを追求する単なるユーザーとしての立場に甘んじている。私発で、ネットを活用した新しいビジネスや付加価値が世に出されることはまずないであろう。

AIをディープに学ぶことが必須に

AIに関しては、その習熟の度合いによってさらに大きな格差が顕在化するであろう。即ち、AIにコマンドを出して新しいサービス(価値)を創造できる人と、そのようなAIサービスのユーザーで終わる人である。後者の中には、AIによって職能を代替されてしまう人が多数含まれると考えられている。もはやAIユーザーではなく、AIに使われる立場と言ってもいいかもしれない。

このような問題意識は、次世代の教育の在り方にも大きな影響を与えるはずである。ディープラーニングを厭わないAIの特性を、それこそ「ディープ」に学んでいくことは間違いなく必須になるであろう。

人生100年時代に入ると言われている。ASEANとほぼ同い年の私は、ASEAN100周年の記念行事も見ることができるのではないかと期待している。当然、今後の50年は過去50年よりも大きな変化がもたらされるはずである。ネットのコマンダーにはなれなかったが、いっちょAIをディープラーニングしてみるか。人生の折り返し地点にあって、密やかな決意をする私である。


Comments

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です