【記事】アイデアのプロが愛用する考具「マンダラート」とは何か

アイデアのプロが愛用する考具「マンダラート」とは何か

元記事はこちら。

<アイデアを出すときには、数を限定せずいくつでも出すこと。そのために役立つのが、脳を縦横無尽に活躍させてくれる「マンダラート」だ。アイデア本のロングセラー『考具』から>

ビジネス書の世界には、定番と呼ばれるものがある。古い本なのに内容が古びず、読者のニーズに応え続ける”はずさない”本。いわゆるアイデア本でいえば、『考具』(加藤昌治著、CCCメディアハウス)が有名だ。2003年に刊行され、15万部のロングセラーとなっている。

といっても「考具(こうぐ)」なんて知らない、という人も少なくないはず。これまでアイデア本を手に取る人は、企画などを仕事にしている人が主だったからだ。

時代は変わった。右肩上がりの経済成長は消え去り、多くの業界が激しい競争にさらされるなか、ビジネスパーソン1人1人の「考える力」がより一層問われるようになってきた。さらに今後は、人工知能(AI)の発展により、単純作業など、多くの仕事が失われるとも言われている。

そこで人間に残された生き残る道は……などと小難しいことを考えずとも、これだけは確かだ。ビジネスの世界で生きていくのに、考えるための道具(=考具)があるに越したことはない。

このたび、『考具』のサブテキストとして基礎編『アイデアはどこからやってくるのか』と応用編『チームで考える「アイデア会議』(いずれも加藤昌治著、CCCメディアハウス)が刊行されたのを機に、『考具』から一部を抜粋し、5回に分けて転載する。第3回は【考具その9】マンダラート。

※第1回:「今日は赤」と意識するだけ 「カラーバス」で見える世界が変わる

※第2回:お客さんの気持ちを「考える」ではなく「演じて」みたら?

【考具その9】マンダラート

シンプルなフォーマットから不思議なほどアイデアが出てくる

アイデアを出すときには、数を限定せずいくつでも出すこと、とこれまで繰り返してきました。一直線ではなく四方八方、放射状に展開していくイメージです。そうした頭の動き方をトレースしたかのような考具があります。「Mandal-Art」(マンダラート)。頭の中にある情報やアイデアのヒントをグイグイ引っ張り出してくれます。わたしが数年にわたり愛用しているフォーマットです。紙の手帖、パソコン版、パーム版と揃っていまして、わたしは手帖とマッキントッシュ版をメインに使っています。

まずは次のページの図を見てください(※本記事では割愛)。大きな正方形の中が区切られて9つのセルになっています。これをマンダラと呼ぶのですが、このシンプルな形の上で、あなたの脳が縦横無尽に活躍するから不思議です。

真ん中にテーマを書きます。自分への問いかけです。お試しでやってみましょうか。周りにマグカップはありませんか? マグカップの新商品企画についてのアイデアを出さなければいけない、としましょう。マグカップ? 難問です。

マンダラの中心のセルに「マグカップ?」と書いてみます。そして、その問いかけに対する答え、この場合なら新商品企画の手がかりになりそうなことを周辺のセルに埋めていきます。

「取っ手」
「カラーリングの多さ」
「飲み口の薄さ」
「かわいいイラスト」……といった具合。

マンダラの周辺セルは8つあります。なんとか、ここを全部埋めてみてください。

いま4つですね。あと4つ。

「価格」
「頑丈さ」

あと2つ。

ちょっと疑問だけど「洗いやすさ」。あと1つ。

とりあえず「重さ」!

ちょっと苦しくなっても、とにかく8つ埋めてください。

埋まりましたか? 全部埋めることで、商品コンセプト=切り口が8つも登場したことになりますよ。これが横罫のノートだったら、8つも出てきたでしょうか?

8つのセルを埋めるという少しばかりの強制力が働くと、頭が必死になって回転を始めるのです。ここで、8つのうちどの切り口が有望なのかを選択することもできますが、今はさらに商品のアイデアを探しに行きます。

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『考具』(CCCメディアハウス)より

書いたばかりのマンダラの周辺セル、その一つひとつをさらに展開させます。

次のマンダラの真ん中には「取っ手?」と書きます。このコンセプトを新商品に発展させるには、何が必要でしょうか? この問いに対して周辺の8つのセルを再び埋めていきます。

「指が2本入る」
「人間工学」
「子どもでも持ちやすい」
「日本調のデザイン」
「滑らない」などなど。

もし事前に「取材」ができていたらもっと良い要素が見つかるかもしれません。

取っ手といえば、この前雑誌で見たユニバーサルデザインも関係あるかな? と思い出して、「ユニバーサルD」と埋める。

ユニバーサルデザインで持ちやすい……右手でも左手でも持ちやすいか? と思いついて、「RもLもOK」と書き込む。

そういえばこの前入ったカフェでカフェオレを頼んだら取っ手のない大きなボウルみたいなのが出てきたな。「フランスって取っ手のないカップで飲むんです」とか店員が言ってたけどホントかいな?

で、「取っ手ナシ」。

これで8つ。

すでに取っ手だけでも8つのバリエーションがある商品コンセプトが生まれています。この後は「取っ手 その2」に行ってもよいですし、お次のコンセプト案「カラーリング」を展開させても。

8つの切り口があって、それぞれをまた8つ展開できたら8×8=64の新商品企画につながる要素が生まれたことになります。単純計算ですが、これらの要素の数学上の組み合わせの可能性は億どころか兆の単位でも収まりません! とんでもなく効率的に、新しいアイデアを数多く作ることができるのです。

もちろん、本当の新商品としての企画になるまでにはコンセプトの検討と選択、そして実現度のチェックが必要ですが、その前提となる数多くの選択肢をいとも簡単に生み出すことができる考具がこのマンダラート。

雑誌で見たユニバーサルデザインの話や、たまたま飲んだカフェオレの体験もヒントになってくれました。おそらくマグカップについて考えることがなければ、あの取っ手のないボウルのことは思い出さなかったでしょう。

普段の生活で積み重なった記憶を引っ張り出し、組み合わせるだけでも、新しいアイデアがたちどころに誕生するのです。当然ながらマグカップについての深い知識があれば、またマグカップが使われるときのシーンを思い浮かべられたら、さらに拡がるはずです。

さらに男性と女性とでは出てくる言葉が違うはずですし、気がつく点、改良して欲しい点も違うはずです。2人で持ち寄ったら、収拾がつかないほどのアイデア数になりそうですね。自分1人だとしても七色いんこ(考具その4)してください。指がもっと小さかったら、もっとごつかったら……どんなマグカップが売れるんでしょうね?

必要なのは、8本の線が引いてあるだけの紙。

この不思議なマンダラートはデザイナーの今泉浩晃さんが開発された手法です。

【参考記事】プライベートジェットで「料金後払いの世界旅行」を実現する方法

こんな使い方もできます。

今度はクルマ。新型車の記者発表会(マスコミの方々を招いてのPRイベント)のアイデアを考えなければならない、としましょう。

記者発表会であれば、新商品の特長を端的に伝えたいものです。記者発表時にはニュースリリースという報道用の資料を配付します。ニュースリリースでは見出しが重要。その商品で一番伝えたいことを言わないといけません。「○○新発売!」だけでは能がない。

さらに集まっていただいたカメラマンのことも考えたい。シャッターを押したくなるような発表の仕方はないか? と考えたいわけです。

クルマの種類でずいぶん違いますが、ミニバンの新型車だと仮定します。

ニュースリリースの見出しを考えていく場合だったら、1枚目のマンダラの真ん中に「見出し?」と置いてみましょう。自分だけが分かればいいので「ニュースリリースの見出し」なんて面倒なので全部は書きません。

この場合、見出しとは、すなわちミニバンの特長のこと。

「8人乗り」
「広いユーティリティスペース」
「ミニバンだけど馬力」
「燃費」
「かっこいい」
「×××(デザイナーの名前)」
「競合より20マン安い」

……いろいろありそうですね。8つをオーバーしそうだったら、とりあえずセルの脇に書いておいてください。後でどうするか考えましょう。

さらに展開していきます。「広いユーティリティスペース」だけでは、ライバルとの違いが分かりませんよね。マスコミだって取り上げてくれないでしょう。

2枚目の真ん中に「広いUスペース?」と書いて、周辺の8つを埋めます。最初に、どこが広いのか? を書き出してみましょうか。「広いUスペース?」の下に「どこが?」と付け足して、クルマの資料を読み返したり、記憶をたどってセルを埋めていきます。

「トランク」
「トランクの下部スペース」
「後部座席の足もと」
「ドアポケット」
「たためる後部座席」
「ヘッドクリアランス」
「コンソールパネル周り」
「運転席」……運転席? ちょっと違うかな、と思ってもためらわず書いておきましょう。アイデアに遠慮は厳禁です。

とりあえずここまでの段階でもいくつかの切り口が考えられます。

「ユーティリティスペースの多さ」──いろいろ収納できるような広さが確保されているスペースの数、に着目する。

「合計○○リットル」──確保した広さを容量で示すのもアイデア。

「運転席まで広い」──ユーティリティスペースにプラスして運転席までも広い、と少しずらしたアイデアも。アイデアを思いついたらすかさずメモっておくことを忘れずに。絞るのは後で。さあ、いくつのアイデアが見つかるでしょうか?

カメラマンを意識した場合はどうでしょうか。

「かっこいい写真は?」と真ん中のセルに置いてみて、撮影された写真を想像してみます。

「真っ正面」
「左前30度から」
「ドアを開けて」
「閉じて」
「走っている写真は?」
「社長と一緒に」……と頭の中でカメラを構える。

アイデアが押し寄せて来そうな予感がしたら、そのまま寄り道してもう一段階マンダラを開いてしまいましょう。「社長と一緒」の方向性をさらに展開させます。

クルマと一緒に写真に入る社長に注文するとしたら?

「ボンネットに手を置いて」
「脇に立ってVサイン」
「運転席に乗って登場」
「助手席で手を振る」……出だしたら止まりません。

さて、どれがベストなのか? それはある程度アイデアを出し切った後で、じっくりと選べばいいのです。しつこくて恐縮ですが、アイデアを出すことと、アイデアを選ぶ・判断することを別にしておくことを意識しておいてください。

それにしても、なぜこんなにたくさんのアイデアが出てくることが可能になるのでしょうか?

アイデアの素になる要素が一つのテーブルに載っかっているからです。いちいち思い出す必要なくヒントが目の前に並んでいると、アイデアが生まれやすいんですね。ポストイットをたくさん貼っているのと同じです。最初に頭の中にあった情報やヒントを目に見える形に出しておくことによって、アイデアが出やすい、つまり要素を組み合わせやすい環境を作ってあげる。加えて、マンダラが放射状に働く頭の動きに忠実な形をしていることも要因の一つ。デザインのチカラ、を感じずにはいられません。

これがアイデアを拡げて拡げて拡げるマンダラートの使い方です。

すでに頭の中にある情報=既存の要素をうまく引き出すことができれば、新しいアイデアを生み出すことは簡単になるのだということがお分かりいただけたでしょうか?

そのアイデアが面白いかどうかは組み合わせの妙が問われることになります。しかし、組み合わせの方法よりは、組み合わせる要素をどれだけ多彩に引き出せるのか、の方が重要なのかもしれません。

※第4回:企画に行き詰まったら「オズボーンのチェックリスト」を

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